糖尿病のある人の新型コロナウイルス感染症への対応

※「糖尿病のある人の新型コロナウイルス感染症への対応」に、2020年11月24日に肥満に関する項目を加えました。

日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会は「糖尿病のある人の新型コロナウイルス感染症への対応」を2020年5月14日に公開しました。

新型コロナウイルス感染症が拡大するなかで、糖尿病をもつ方にとって新型コロナウイルス感染症はどのような疾患なのか、
どういった点に気をつけるべきなのかを、これまでに公表された論文データなどから整理し、下記のようにまとめています。
(全文のPDFをこちらから入手できます。)
※本稿の商用での引用掲載に関しましては、原則として使用料を申し受けます。

糖尿病のある人の新型コロナウイルス感染症への対応

日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会は、糖尿病やその関連疾患について、人間(ヒューマン)でのデータに基づいた予防・治療・ケアを推進するため、それらに資するエビデンスと、根拠に基づいた医療・予防医学の発展・確立を目指して活動しています。

このたび、新型コロナウイルス感染症が拡大するなかで、糖尿病をもつ方にとって新型コロナウイルス感染症はどのような疾患なのか、どういった点に気をつけるべきなのかを、これまでに公表された論文データなどから整理し、まとめました。

Q1. 糖尿病があると、新型コロナウイルス感染症にかかりやすいのでしょうか?

中国の 2108 人の新型コロナウイルス感染症患者(平均年齢 49.6 歳)に占める割合は 10.3% (下記文献 1の Fig. 1a)と、中国全体の糖尿病の有病率(2013 年に 10.9%、40~59 歳に限れば 12.3%;文献 1 最初のページ第 2 段落の最後)と同程度でした。同様に、出版された文献の結果をまとめた文献 2 によれば、米国でも、新型コロナウイルス感染症患者において糖尿病をもつ人の割合は 10.9%(文献 2 の Table 1 最下行)で、国全体の糖尿病の有病率(2018 年に 10.5%;文献欄 3)と大きく変わりませんでした。糖尿病があると新型コロナウイルス感染症が重症化することが報告されていますが(Q2 参照)、感染率自体には大きく影響することはないようです。

[文献]

  1. Fadini GP, Morieri ML, Longato E, et al. J Endocrinol Invest. 2020 Jun;43(6):867-869.
    doi: 10.1007/s40618-020-01236-2
    https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s40618-020-01236-2.pdf
  2. Singh AK, Gupta R, Ghosh A, et al. Diabetes Metab Syndr. 2020 Apr 9;14(4):303-310.
    doi:10.1016/j.dsx.2020.04.004
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7195120/pdf/main.pdf
  3. American Diabetes Association.
    https://www.diabetes.org/resources/statistics/statistics-about-diabetes#sthash.F8fRkPqd.dpuf
2020/05/14 第 1.0 版
(文献 1、2 の参照箇所を追記した) 2020/05/25 第 1.1 版

Q2. 糖尿病があると、新型コロナウイルス感染症は悪化しやすいのでしょうか?
また、血糖値の状態(血糖コントロール)が関係するのでしょうか?

Q1 で述べたように、糖尿病が新型コロナウイルスへの感染率そのものに大きな影響を与えることはないと考えられます。一方で、ニューヨーク市において、重い呼吸器症状を呈して入院した新型コロナウイルス感染症患者では、33.8%に糖尿病があったと報告されており(文献 1 最初のページ RESULTS 欄と Table 1)、これはQ1に記載した有病率よりも高い割合であることを勘案すると、糖尿病が新型コロナウイルス感染症を重症化させやすい可能性が考えられます。
実際、これまで公表された論文のデータをまとめるメタアナリシスという手法によって、糖尿病があると新型コロナウイルス感染症の重症化や死亡のリスクが 2~2.5 倍にまで高まることが報告されています(文献 2 最初のページ ABSTRACT の Results 欄と Fig. 2)。
では、血糖値との関係はどのようでしょうか。糖尿病患者で血糖コントロールが良好なグループ(入院中の空腹時血糖値 70 mg/dL 以上で食後 2 時間血糖値 180 mg/dL 以下)とそうでないグループ(入院中の空腹時血糖値 70 mg/dL 以上で食後 2 時間血糖値 180 mg/dL 超)に分けて調べた中国からの研究があります(文献 3)。これによると、血糖コントロールが良好なグループではほとんど生存率が下がらない(下記文献 3の Fig. 3)ことが報告されており、血糖値を良好にコントロールしておくことの重要性が、新型コロナウイルス感染症に対しても示唆されています。
ただし、この血糖値(180 mg/dL)は中国のガイドラインに基づいて解析対象とした上限値であり、世界的にもあてはまるのか、わが国でも、新型コロナウイルス感染症についての最適な血糖管理について、独自の検証を進める必要があるでしょう。

[文献]

  1. Richardson S, Hirsch JS, Narasimhan M, et al. JAMA. 2020 May 26;323(20):2052-2059.
    doi: 10.1001/jama.2020.6775
    https://jamanetwork.com/journals/jama/articlepdf/2765184/jama_richardson_2020_oi_200043.pdf
  2. Huang I, Lim MA, Pranata R. Diabetes Metab Syndr. 2020 Apr 17;14(4):395-403.
    doi:10.1016/j.dsx.2020.04.018
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1871402120300837?via%3Dihub
  3. Zhu L, She ZG, Cheng X, et al. Cell Metab. 2020 Jun 2;31(6):1068-1077.e3.
    doi:10.1016/j.cmet.2020.04.021
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1550413120302382
2020/05/14 第 1.0 版
(文献 1、2 の参照箇所を追記した) 2020/05/25 第 1.1 版
(最初の段落にQ1との対比に関して追記した) 2020/08/28 第 1.2 版

Q3. 糖尿病があることで、新型コロナウイルス感染症の予防に関して、特に留意する点はあるのでしょうか?

糖尿病そのものが新型コロナウイルス感染症への感染率を高めるわけではないと考えられます(Q1 参照)。しかし、糖尿病の方は重症化しやすいことが報告されています(Q2 参照)。したがってその予防についても、糖尿病を持たない一般の人と変わらず対策を講ずることが、ご本人だけでなくご家族も含め、より大切になってきます。手洗いの励行、マスクの着用、密集、密閉、密接のいわゆる「3 密」を避ける、といった、感染リスクを避ける「新しい生活様式」(文献欄 1)を取り入れることが大切です。
公開情報(おもに医療に関する文献情報)に基づいて、医療上の判断を評価するコクランレビューという出版物のシリーズがあり、信頼性が高いとされています。その一つ(文献 2)では、マスク(Analysis 1.3.)や手洗い(Analysis 1.2.)が呼吸器感染症ウイルスの広がりを減少させるのに有効かどうかを検討しており、いずれも効果があると結論づけています。
なお、厚生労働省は、マスクの効用として、“口をしっかり塞ぐことで、飛沫(くしゃみなどの飛び散り)を防ぐ効果があります”としており(文献欄 3)、他者へ伝染させることを抑止する点をとりわけ明記しています。

[文献]

  1. 厚生労働省ホームページ
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html
  2. Jefferson T, Del Mar CB, Dooley L, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jul 6;(7):CD006207. doi:10.1002/14651858.CD006207.pub4
    https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD006207.pub4/full
  3. 厚生労働省ホームページ・経済産業省ホームページ
    https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/cough_etiquette.pdf
2020/05/14 第 1.0 版

Q4. 肥満と新型コロナウイルス感染症の関係はどのようでしょうか?

2020年3月に、14の州において入院を要した新型コロナウイルス感染症の患者に関する米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の報告によれば、48.3%が肥満を有していたと報告されており(文献1のp. 459左カラムの下から9行目)、これは米国における肥満の割合(年齢層により40.0~44.8%に分布;文献2のFigure 1)より少し高い割合であることから、肥満が新型コロナウイルス感染症のリスクである可能性が想定されました。
実際、肥満と新型コロナウイルス感染症の関係を解析したメタアナリシス(公表された論文データをまとめる手法による解析)がありますが、これによれば、BMIが25 kg/m2超であるカテゴリーでは、BMI25 kg/m2未満に比べて人工呼吸器管理になるリスクが、いずれのBMIカテゴリーでも認められており(文献3のFigure 4)、肥満が新型コロナウイルス感染症を重症化させやすい可能性が考えられます。最近のメタアナリシスでも、肥満は感染、入院、集中治療室への収容、人工呼吸器の装着、病院での死亡のいずれのリスクも増加させており(文献4のFigure 2のそれぞれA、B、C、D、E)、したがって、肥満があればそれを解消しておくことは、新型コロナウイルス感染症の重症化予防につながる可能性が考えられます。

[文献]

  1. Garg S, Kim L, Whitaker M, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2020 Apr 17;69(15):458-464.
    doi: 10.15585/mmwr.mm6915e3
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6915e3-H.pdf
  2. Hales CM, Carroll MD, Fryar CD, et al. NCHS Data Brief. 2020 Feb;(360):1-8.
    https://www.cdc.gov/nchs/data/databriefs/db360-h.pdf
  3. Földi M, Farkas N, Kiss S, et al. Obes Rev. 2020 Oct;21(10):e13095.
    doi: 10.1111/obr.13095
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/obr.13095
  4. Yang J, Tian C, Chen Y, et al. J Med Virol. 2020 Nov 17. Online ahead of print.
    doi: 10.1002/jmv.26677
    https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jmv.26677
2020/11/24 第 1.0 版

 

新型コロナウイルス感染症は新しい疾患であり、日々新規の知見が集積されていきます。また、感染の状況も時々刻々変わってきます。このガイダンスも改訂される可能性があり、更新や追加を予定しています。